著者   坂本廣身
出版社  愛育社
定価   4,600円+税 
全国書店にて販売中!

太平洋戦争を新しい視点から書いた書籍が出版されました。
 
以下,推薦文とはしがき・あとがきを掲載致します


『ノンフィクション太平洋戦争〜真実の敗因と敗戦の功罪〜』


                



















はしがき

太平洋戦争について語るとき当時の戦争経験者は、政府や軍部の情報操作に踊らされ上から与えられる情報を鵜呑みにするだけで真実を知らなかった。それを今でも気づいていない人も少なくない。旧共産圏の国や、現在の北朝鮮などのように、全ての情報源は政府や軍部が源流(source)だった。本当に彼等が知っている真実は戦場で目撃したことだけだった。当時の公的記録は全て軍部や政府の検閲を経ているからとうてい真実とはいえない。
戦争についてのノンフィクションも数多く出されているが、それらは販売部数を増やすため、或いはテレビの視聴率をあげるため誇張されたり、歪曲されたりしているのは御高承の通りである。
その上、政治的思惑を持ってメディアを利用する人たちに至っては、事実を捏造してまで真実と思い込ませることさえしている。これは進歩的文化人と言われる人たちや左翼勢力が熱心であることも、周知の事実である。
戦記物に限らず、一般に実話形式の小説にも間違いや事実の捏造やフィクションが多い。それを読者は真実だと思いこむ。若干の例を挙げる。
吉川英治の小説もフィクションだらけである。たとえば三国志は吉川英治の翻訳による、と思い本気にしていると、冒頭の黄巾族の乱に出てくる「劉備玄徳が賊から若い姫君を救う」場面などは、完全な作り話である。原文にはない。
司馬遼太郎の「龍馬が行く」に出てくる家老の娘、お田鶴様の話も作り話だし、寝待ちの藤兵衛という泥棒上がりの龍馬の部下というのも全くの作り話。街道を行くの「土佐梼原の棚田の水は、はるか下の気の遠くなるような谷の水を汲み上げて来たものだった」に至っては物理的に不可能な話である。
こうやって作家は、話の真実性よりも本の売れ行きを優先させる。
本書に出てくる児島譲のレイテ海戦の戦艦大和艦上の記述もそう思って読むべきで、怒ってはいけないのである。
昭和14年に当時の満州とモンゴルの国境紛争が原因となって、日本陸軍とソ連軍が武力衡突したノモンハン事件も真実が歪められて伝えられている。日本軍は第23師団が応戦したが、機械化されたソ連軍に対して肉弾攻撃の日本軍がワンサイドゲームで惨敗し、短期間で1万8000人が戦死した、とされている。

真実は日本軍が強く、ほとんどワンサイドゲームでソ連軍を撃退した。ソ連空軍機は、緒戦で150機も撃墜されている。これは当時としては大戦果である。

ところが、ソ連軍は援軍の大部隊をどんどん注入してきた。日本軍は、満州の航空機の大編隊や戦車隊などは待機させたままで救援には行かせなかった。援軍の来ないノモンハンの日本現地軍は、充分な増援部隊を擁するソ連軍に惨敗した。そして双方、損害が同程度となったところで停戦している。ソ連にしても、満州には日本陸軍大部隊が待機していながら交戦部隊を見殺しにしていることは知っているので、素直に停戦に応じている。

これを歪めて史実としたのは、左翼系反戦作家の一群と当時のマスコミに巣くった左翼ジャーナリストたちだった。
真実を知りたければ記録を調べればよいのだが、記録には説明がないと理解できないことが多い。その説明文も記述者の都合で、筆が曲げられて書かれているとしたら素直に読めないことになる。これが、戦記物の記述である。

歴史を歪めて政治的主義主張を広めることに利用することは言語道断だが、止めさせる手段はない。政治的意図はない本でもみんなウソを書き、針小棒大に書いて読者を驚かせ血をわかせ興奮させ泣かせなければ、物書きは飯が食えないのである。
そこで、戦争体験者でさえも知らない太平洋戦争の敗因の真実を明らかにする。たとえば風船爆弾は爆弾ではなく「伝単」であったこと、ナチスのユダヤ人強制収容所で殺害されたユダヤ人は200万人もいないこと、山本五十六海軍大将は横須賀の料亭の贔屓の若い芸者のためにトラック島基地に、豪華なセックス・ルームを作らせて、その芸者を囲っていたこと、戦艦大和の出撃は片道燃料ではなかったこと、戦艦大和の出撃目的も結果の予想も現代でも真相が語られていないこと、ポツダム宣言の受諾は内閣の補弼(助言と承認)がないままだったことなど、これまでの常識を覆す事実を並べてある。

本書の大筋は、日本の政治は源頼朝の鎌倉幕府の武家政治以来、室町幕府、徳川幕府と武家政治という軍事政権が続き、明治の大日本帝国になっても薩長閥を中心勢力とする帝国陸軍による軍事政権が敗戦まで続いていた、とする軍事政権国家、近代史にいう幕府政治の延長線上にある軍事政権だったとする歴史の認識で書いている。大事なことだから、天皇の地位よりも帝国陸軍が上位に居た証拠をあげておく。

昭和11年2月26日、大雪の東京で歩兵部隊1400人の将兵が陸軍大将や大臣などを殺害した2.26事件がわかり易いので、これで説明する。当時の昭和天皇が親米英派であったため、戦争をしたくてたまらない血気にはやる陸軍上層部は昭和天皇が不愉快でたまらない。天皇のすぐ下の弟宮(秩父宮)は麻布第四連隊の下級将校である。この弟宮は反米英で日独伊三国同盟推進派である。そこで昭和天皇に退位してもらって秩父宮に天皇になってもらう。その手段として昭和天皇の親任の厚い米英派の側近を全て殺し、米英派の天皇を退位させる。これが2.26事件であり、首謀者は秩父宮や数人の陸軍大将を担いだ陸軍少将、大佐などのようである。2.26事件の歩兵部隊を指揮した大尉、中尉、少尉たち下級将校には、このような背景は知らせていない。彼等に信じ込ませたのは「東北地方の農村部で極端な飢餓状態が続き、娘は売春婦として売られ、残された家族には一家心中が流行っている。一方、大将、大臣らは酒池肉林の贅を極める上層階級を厚遇しており、村全体で次々に一家心中している末端農民からの苛斂誅求はますます激しくなっている。この政治の廓清のため賊臣に天誅を加えるのが目的だ。」と欺してあった。これらの事実を裏付ける根拠は随分沢山あるが、そのほとんどが外国の資料を用いている。だが国内に超一級の資料が残っていた。2.26事件当時の外務大臣は重光葵(マモルと読む)である。同人は敗戦時も外務大臣で、戦後の民主党副総裁をしている。同人の日誌に

「吾人は暫々、軍人から天皇への批判を聞く。2.26事件当時、天皇が革新(筆者注:革新とは日独伊の三国同盟を指す)に反対なら他の宮殿下(筆者注:秩父宮のことである)をもって陛下に代うべし、という言動を想起せざるを得ない」
と書いている。2.26事件の結果として、昭和天皇の退位はなかったが昭和天皇は親米英の立場から陸軍の言いなりの日独伊の三国同盟に向う。

そして、その到達点、終着駅が帝国陸軍による太平洋戦争突入と大日本帝国の崩壊だった。大日本帝国が「米英支蘇」の連合国に降伏してからは、今度は米国陸軍の軍政によって支配せられた。

太平洋戦争史を大日本帝国支配者の立場で見るか、戦前の、弾圧を受け差別された先祖の恨み、報復としての立場で見るか、植民地支配の侵略被害者の立場で見るか、によっても違ってくる。その上、戦後の戦史の記述や戦争を描写した映画、テレビは主として左翼勢力が勢力拡張反戦思想の普及目的で事実を曲げていたことに気づかない視聴者は、それを史実だと誤解したままである。

本書は、特定の政治的主義主張を広める目的はないし、筆者は大日本帝国の支配者階層の出身でもない。植民地支配者などによる報復、恨みの立場にもない上に、本書の執筆によって名前を売り込む必要もない。真実を筆者が今、書いておかないと、他に本当の歴史を書く人はもう居ないと思われる。

本書の執筆は、筆者が全て一人で書き上げた。ゴーストライターが書いたり、他人の原稿を買取ったりしたのではない。従って文責は形式的にも実質的にも筆者にあって責任逃れは出来ない。読者の一部からは厳しい抗議が予想される記述もあるが、全て真実であることから筆を曲げる訳にはいかない。

本書の記載の要領として歴史の年表に添って年代別に書く、ということも考えられるが、その書き方で正しい戦史の真実を明らかにするには全十巻くらいの分量にせねばならず、戦後70年も経た現在、そこまでする実益はない、と考えられる。読者諸兄にとっても興味のある部分だけ選んで飛び飛びに読める便宜を考えて短編、読み切り型の記述とした。

読者には本文を読んで頂ければ、本書の記述が真実であることを実感していただけるはずであると思い、内容の濃い正確な史実として自信を持って書いた。だが、本書の記述は手がかかった上に労力に見合う儲けがある筈もなく、名をあげる訳でもないから自信過剰とか、自惚れが無ければ、この分量は書ききれない。本書の執筆は、充分信用できる資料を根拠としたが、新聞記事を根拠とした箇所もあり、或いは正確ではないところも有るかもしれない。新聞記事は正確ではないことがあるからである。諸賢の叱責をお待ちする。

本書の執筆に当たって資料の御提供を頂いたり体験談の助言を下さった諸兄には一人一人お礼を申し上げるべきであることは承知しているが、労力を省かせて頂いて、ここに謹んでお礼申し上げる。

あとがき

本書を執筆することになったきっかけは、今から約40年前に戦時国際法の解説を依頼されたことに始まる。

筆者は弁護士だから国際公法の知識はあるが、未成熟法規と呼ばれる国際法の中でも戦時国際法は最も未成熟な領域であるため作業は困難を極めた。戦時国際法の存在形式は条約もあるが、これは具体性に欠ける。


戦時慣習法は、ミシシッピ河のカロライン号事件、オランダ艦隊抑留事件など数百年前から調べ上げた。お蔭でナポレオンやアドルフ・ヒトラーなどの生涯にも詳しくなった。

驚いたことに戦時国際法規を最も規律正しく遵守したのは、実はナチス・ドイツだったのである。現代ドイツにおいてもナチスについての礼讃や偉業部分を宣伝することなどが禁じられているから、ナチスは狂気の集団であった、ということで歴史が固定化するものと思われる。
そして戦時国際法の存在形式が条理とか文明国の認める法の一般原則、と言うに至っては、まさにやくざの「仁義なき戦い」と変わらない。

戦時国際法を研究しても金にはならないので研究者の数が少ないこともあって、現代日本において戦時国際法の知識があるのは自衛隊を除けば私がトップクラスではないか?と思っている。


この研究過程において大日本帝国陸海軍の戦史は巷間の俗説が、随分、真実と違うことを知った。

本書の出版は、大日本帝国の敗北の本当の原因と敗戦の功罪という角度で書くことにより戦時下の学童として最若年であった筆者が後世の皆さんに、本当の戦史を知って頂く為に書いた。

本書の執筆によって弁護士稼業の依頼者に迷惑はかけられないので、8月の夏休み時期や正月前後は長い年月、本書の執筆に専念した。正月に執筆に専念したのは、100人受験して合格者は1人半という時代の司法試験に、何回も不合格を経験しているから、受験時代を思い出し何の苦痛も感じなかった。

逆に楽しみながら書かせて頂いて満足している。

ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺問題など間違いが許されない事実の指摘などは念入りに確認している。

戦後70年も経た今、太平洋戦争の真実と敗戦の功罪を執筆しても関心を持つ人は少ないと思われるが、本書が歴史の真実を後世に伝えることで世間の皆さんのお役に立てれば、私は満足である。

筆者